左手薬指の価値を下げるキャンペーン

⚠️開始早々セックスって言います。そのあと特に生々しい描写はないです
ヒラギノ游ゴ 2023.07.21
誰でも

セックスした友達から一方的に既婚者だと思い込まれていて、その子は事が始まる前に何も言わずひっそりと不倫する覚悟を決めていた、ということがあった。

理由はわたしが左手薬指に指輪をしていたから。単純にその指がいちばんぴったりはまるサイズだったからそこに引っかけているにすぎないそれは、音も立てず勝手にわたしの了承していない文脈を帯びていた。

何より、堂々と指輪をしたうえで事をする方向へ話が進んでいるんだから、わざわざ改めて既婚であることを確認するのは野暮だろう、みたいな感覚を相手の子が人生のどこかのタイミングで学びとっていたわけで、また新たに世界の嫌いなところを見つけてしまってつくづくうんざりした。また自分は搾取をしたのだ。家父長制は実に生真面目な頻度で絶望を再確認しにくる。

そのことがあってから地味に地道に続けている社会運動が「左手薬指の価値を下げる」キャンペーン。

どう見てもまず結婚指輪じゃなさそうなチープで妙でトンチキな指輪を左手薬指にはめて出かける。あれってまさか結婚指輪じゃないよね、まあ左手薬指だからって必ずしも結婚指輪ってわけじゃないか、その程度のもんだよね。こういうムードの濃度を、星の空気中において少しでも上げるためのごくごく小さな闘争。身体に自分の意志を超えた意味づけがされることについての抗議。過剰に価値づけされたものを適正値まで均す活動。

指輪に言及する人がいたらキャンペーンの意図を説明する。「そうなんだね」とか「めっちゃいいじゃん!」とか「いつもいろいろ考えてるよね」とか「わたしもやっていい?」とか、それぞれの温度感の言葉が返ってくる。

ほどよい。かかる労力、背負える規模感、賛同の得られる割合、フォロワーがつく率、疲れたら中断できること、全部がかなりほどよい社会運動で気に入っている。

サムネイルは「わたしもやっていい?」と言った友達と次に会った日の「やってみたんだけどどうかな」の写真。きっとこの先のいつかの何かに繋がっているはず。

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